第12回 キッズデザイン賞 受賞
閑静な住宅地に計画された、新しい保育園
計画にあたっては、子どもたちの声や登降園時の交通、建物の高さや配置などについて、地域からさまざまな懸念や要望が寄せられました。保育園にとって必要な環境を守りながら、地域の中で長く受け入れられる建物にするにはどうすればよいか。地域との対話を重ね、保育環境と周辺の暮らしを両立する計画へと見直していきました。
東京都世田谷区 | 認可保育所 | 2018年3月竣工 | 木造在来工法(真壁工法)、一部鉄骨造
地域から寄せられた要望の内訳(全141項目)
多用な要望を、設計の出発点に
計画地は戸建て住宅や低層集合住宅が並ぶ閑静な住宅地。周辺住宅への影響、交通問題、音の問題、臭いの問題など、近隣説明会を通して寄せられた要望は141項目に及びました。要望を単なる制約として扱うのではなく、内容を整理し、保育理念と両立させながら、建築として一つずつ応答していきました。
01 音環境
地域の声園庭から周辺へ伝わる音への配慮↓設計による回答園庭を園舎で囲む中庭型へ
02 登降園時の安全
地域の声狭い前面道路への懸念↓設計による回答敷地をセットバックし木レンガの歩道を整備
03 地域の景観
地域の声「この地域にふさわしい建物」高さ7m以下という要望↓設計による回答周辺の建物の高さに合わせた低層の園舎
地域との対話を受け、当初案から中庭型へ大きく計画を変更しました。
当初案
園庭・プールが外側に開いた配置
最終案
園庭・プールを園舎で囲む配置
一般的に採光に有利である「園庭は南側に、園舎は北側に」という配置から、園庭を園舎で囲む中庭型へ。 園庭の音が近隣へ伝わりにくい配置計画とすることで、「地域への配慮」と「子どもたちがのびのび過ごせる保育環境」の両立を図りました。
近隣側
遮音性の高いサッシを採用し、窓の大きさや開閉時間にも配慮。天窓から自然光を補い、室内の明るさを確保しました。
園庭側
園庭に向けては大きな開口を設け、外とのつながりを確保。ハイサイドライトなどからも光を取り込みました。
※ 距離減衰計算・開窓時間などの詳細は、設計時の音環境計画に基づいています。
近隣の建物へ音が届きにくい「園舎の高さ」を設定
建物そのものが音の遮蔽物となるように、配置と高さを計画しました。 子どもたちが元気に遊び、保育者も周辺への音を過度に気にせず保育できる環境を目指しました。 この計画によって、当初は難しかったプールも園庭内に設けることができました。
制約 → 建築的な解決 → 保育環境の向上
南側園舎の地盤面を北側より低くし、囲まれた園庭にも日差しが入る断面計画としました。
高低差から生まれた、長いスロープ
東京都の建築物バリアフリー条例を満たす緩やかな勾配とし、すべての年齢の園児が日常的に通る動線としました。 園庭側には大きな窓を設け、歩きながら園庭の様子が見えるようにしました。 反対側の壁は、園児の絵などを飾るギャラリーとして利用できます。 足元には勾配に沿って照明を設け、明るさと安全性にも配慮しました。
建物のフレーム越しに園庭を見る
日本の住まいにある「広縁」の考え方を保育園に取り入れ、保育室と園庭の間に中間領域を設けました。
室内 → 広縁 → 縁側(ウッドデッキ) → 園庭子どもたちの視線と動きが、内から外へ自然につながります。
地域からの要望を受け、外観は高さを抑えた一方、内部には高い天井を確保しました。真壁工法による柱・梁を現しにし、木の架構そのものが空間の表情となる、開放感のある保育室をつくりました。
低く抑えた外観と対照的な、高さと広がりのある内部空間。
子どもたちが毎日見るもの、触れるもの、過ごす場所の細部まで丁寧にデザインしました。
園児用トイレ。木製の窓枠が額縁となり、外の緑を一枚の絵のように切り取ります。
室内の壁には自然素材の薩摩中霧島塗(さつまなかきりしまぬり)を採用。空間ごとに色や左官のパターンを変えています。室名札は手彫りです。
「門扉やフェンスに、その土地や園名にちなんだオリジナルデザインを採用しています。
地域との対話から生まれた設計が、キッズデザイン賞を受賞
2018年度 第12回 キッズデザイン賞 「子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン部門」「対話を通じて挙がってきた課題や要望を、デザインを通じて解決し、結果として保育環境の向上につながったプロセスは特筆すべきものである。」— キッズデザイン賞 審査委員コメントより(抜粋)
PROJECT DATA所在地 東京都世田谷区用途 認可保育所敷地面積 2,001.38㎡建築面積 929.31㎡延床面積 872.43㎡構造 木造在来工法(真壁工法)、一部鉄骨造竣工 2018年3月設計・監理 住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所
KIDS DESIGN AWARD第12回 キッズデザイン賞 受賞作品ページ
SUUMO JOURNAL「キッズデザイン賞受賞! 建設反対の声を乗り越え、地域との共生を考えて設計された保育園」2019.01.11
「マイナス」を「プラス」に変える
設計では、厳しい条件や制約を単に処理するのではなく、その課題を解くことで、よりよい環境を生み出せないかと考えます。
代沢ききょう保育園は、その考え方が、配置・音・日照・動線・空間の一つひとつに表れたプロジェクトです。
保育施設をはじめとする建築設計・工事監理のほか、子どもの安全、住環境、地域との共生などをテーマとした執筆・講演などのご相談も承っています。
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