2025年の年末に、ハノイ(ベトナム)+ルアンバパーン(ラオス)に行ってきました。私自身はベトナムは3度目ですが、ハノイに滞在するのは初めてで、ラオスに入国するのも今回が初めてです。
ハノイは南北に長いベトナムの北に位置する首都であり、古都であり、政治・文化の中心でもあります。観光客向けに整えられた近代的な空間と、千年の歴史をもつ古都としての魅力、そして、旧市街にみられる生活に根ざしたエネルギッシュな空間が隣り合って存在しています。

ベトナム北部に位置する首都ハノイ。
本記事で紹介するトイレ事情は、主に旧市街(Old Quarter)周辺を歩きながら体験したものです。
トイレは、その差が最も正直に表れる場所です。主場面(表の顔)とあわせて見ることで、都市の前提条件が立体的に見えてきます。
線路沿いカフェ
〈立地条件がつくる空間〉
■ 線路沿いカフェ

観光名所として人気の線路沿いカフェ。
列車と客席の距離の近さが、この場所特有の緊張感と非日常性をつくっている。
列車がすぐ脇を通過する線路沿いカフェは、ハノイらしい非日常体験として人気が高く、大勢の観光客が訪れます。
お客を呼び込むために、カフェの表の顔である軒先にはカラフルな提灯やベトナムの旗を下げたり、小粒の照明で軒先を飾ったりととてもきらびやかですが、入店したカフェのトイレはというと、階段下の空間にある、すっかりバックヤード的な空間でした。
■ 線路沿いカフェのトイレ

線路沿いという制約の強い立地条件の中で、
階段下という空間を使ってトイレが設けられていた。
表のように装飾こそないものの、観光客がたくさん訪れるだけあって、トイレとして最低限のものは揃っています。水洗式で、トイレットペーパーもあり、手洗いも備わっています。
よく見ると、便器の横にはインドでおなじみの 「お尻を洗うためのホース」も残っています。また、トイレットペーパーを流すことはできず、近くのトラッシュ缶に捨てる方式です。古くから使われてきた形式に、必要なものだけを足してきた空間であることが読み取れます。
観光都市となり、紙を使う文化に合わせた「追加」は行われたけれども、配管や運用の前提は、大きくは変えていない。そんな折衷のかたちが、このトイレにわかりやすく表れていると思います。
ローカルカフェ(市場近く)
〈日常とインフラ〉
■ ローカルカフェ(ドンスアン市場近く)

市場近くにあるローカルカフェ。
観光向けというより、生活の延長にある空間だ。
ドンスアン市場近くで入ったローカルカフェは、観光者向けに整えられた店というよりも、生活の延長にあるようなお店でした。声をかけたら2階からお店の人が下りてきました。あまり商売っ気がない感じです。
■ ローカルカフェのトイレ

使い方の前提は、線路沿いカフェと同じ。
洗剤や掃除道具が、そのまま空間に置かれている。
店の入り口近くにあるトイレもまた、家族も日常的に使っているのだろうと思わせる、とても生活感の強い空間でした。
便器はかなり使い込まれており、便器の上の棚には「バーバーバー(333)ビール」の空き缶が置かれ(タバコの吸い殻入れ?)、大きなトイレットペーパーは「どうやって取るの?」と考えさせられる背面の高い位置にありました。入ってすぐ目に入るため、安心ではあります。
旅先で、現地の実生活空間に入り込んでしまったような、 ”戸惑い感” がありました。もしかしたら、このトイレに顔をしかめる旅行者もいるかもしれないけれど、そのとき切羽詰まっていた私にとっては、これ以上を求める理由はありませんでした。
ホテル
〈国際基準とローカル運用〉
■ ホテルの部屋

ハノイ市内のホテル客室。
落ち着いた設えで、日本人にもなじみやすい空間になっている。
ハノイでは、旧市街の真ん中に位置するホテルに宿泊しました。週末には、部屋のバルコニーの下にナイトマーケットが立つような立地です。
リニューアルオープンしたばかりのこのホテルのトイレは、かなり手狭ではあるものの、見た目も清掃状態も整っており、日本人でも違和感なく使えます。
■ ホテルのトイレ

見た目や清掃状態は国際基準に近いが、使い方や運用にはローカルな前提が残っている。
トイレットペーパーと(写真では見えないが)お尻を洗うホースも付いています。ただ、トイレットペーパーは背面の壁についており、やはり座ったままでは手に取れず、”日常的に紙を使わない人” が設計したトイレなのだろうと想像します。
しかし、日本から来た旅行者で、ウォシュレットが恋しくなった人にとっては、この ”お尻を洗うホース” が、実はとても頼もしい存在になります。
ホテルでゆっくり、ウォシュレットの代わりに使ってすっきりできる。これこそ、使い方をマスターしている人の、ささやかな特権といえるでしょう。
ノイバイ国際空港
〈都市の最低ライン〉
■ ノイバイ国際空港

ノイバイ国際空港の内部空間。
多国籍の利用者を想定した、都市の玄関口としての設えが見える。
空港のトイレは、その国のトイレ事情の「ひとつの基準」が表れる場所だと思います。それは決して”最低限”という意味ではなく、「誰もが使えること」を最優先した結果としての基準です。
■ ノイバイ国際空港のトイレ

空港のトイレは、その国のトイレ事情におけるひとつの基準になる場所だと思う。
ノイバイ国際空港のトイレは全体として清潔で、案内表示も分かりやすく、使い方に戸惑うことはほとんどありません。一点、ここでは、線路沿いのカフェやローカルカフェで見られた、お尻を洗うホースの姿は、すでに消えていました。
多様な国からの利用者を想定する空港では、使い方が分かれやすい設備は、あらかじめ削ぎ落とされたのでしょうか。一方で、トイレットペーパーは備えられていても、「流さずにゴミ箱に捨てる」という前提は、ここでも変わっていませんでした。
日本の空港と比べると、細やかな気配りや設備の更新頻度には違いがあると感じました。それは単なる清潔さの差ではなく、社会全体がどこにコストや優先順位を置いてきたかの違いなのだと思います。
ルーフトップバー
〈体験としての空間〉
■ ルーフトップバー

夜景を楽しむルーフトップバー。
食事や会話と同様に、時間の流れそのものがデザインされていると感じた。
■ ルーフトップバーのトイレ

トイレもまた、空間体験の一部としてデザインされている。
夜景を楽しむルーフトップバーでは、トイレもまた、空間体験の一部として扱われていました。特別な設備があるわけではないけれども、雰囲気や見せ方がきちんと意識されています。
トイレットペーパーの取り付け位置も自然で、使い勝手に迷うことはありません。スタイリッシュで美しく、機能的で近代的なトイレでありながら、ここにも、お尻を洗うホースは残されていました。
このようなことからも、トイレは、その街のその空間、そして暮らしのあり方を映す縮図なのだと改めて感じました。
ハノイ編・まとめ
観光都市であるハノイのトイレは、旧市街の小さなカフェからホテルまで、世界標準仕様(洋式便座+トイレットペーパー)になっており、旅をしていて大変な思いをすることはありませんでした。
全体を通して興味深かったのは、「きれいかどうか」という単純な評価ではなく、どこまでを整え、どこからを割り切っているのかという、場所ごとの線引きでした。
それは設計の問題というより、もともと古い都市であるためのインフラの課題や運用方法、それぞれの優先順位の積み重ねによって形づくられたものだと感じます。
トイレは、そうした判断の結果を最も率直なかたちで表に出してしまう。
都市の標準仕様を、静かに、しかし正直に映し出す場所なのだと思いました。
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旅先のトイレから、その土地の前提条件や文化が見えてくる。
そうした視点に関心のある方は、
**「南インドのトイレ事情」**もあわせてご覧ください。
現地式トイレに悪戦苦闘しながら、身体感覚を通して理解していった体験を記録しています。









