世界の台所から ~ 暮らしの多様性を学ぶ

世界の台所から社会がみえる

世界の台所から暮らしと社会の多様性を学ぶ

世界の台所探検家としてテレビやラジオでもご活躍の岡根谷実里さんの講演会に参加しました。
(日本家政学会生活経営学部関西地区主催)

こちらの講演会に参加するにあたり、まずは講師の先生の著書を読むことに。ご著書はこちらになります。
『料理から暮らしと社会がみえる「世界の台所探検」』 岡根谷実里著/青幻舎

世界の台所探検 表紙

こちらの本には、訪れた世界14か国の台所の様子、その家族と一緒に料理を作り、一緒に食べた様子が納められています。日本で再現できるレシピも紹介されています。その土地ならではの食材を使ったお料理の数々、普段はなかなか出会えない手間ひまをかけて作った特別なごちそう、家族で食卓を囲んだにこやかな食事の風景などを知ることができます。

実は私は「台所」というタイトルを見て、「キッチン空間」のことが主なのかと思ってしまったのですが、メインは「食事」でした。その中で私が興味を持ったことをいくつかご紹介したいと思います。

上海では料理をしないのがあたり前!?

中国のフードデリバリーの急成長や、女性の労働参加率の高さが相まって、上海では「料理をしないことが当たり前」とすら言われているとのことです。

上海では料理をしないのが当たり前!?

上海では料理をしないのが当たり前!?

ずいぶん前からシンガポールなどでも外食率はかなり高くなっていると聞いていましたが、上海も、なんですね。

2018年1月に上海を訪れる機会がありましたが、上海と日本の物価は同じくらいか上海の方がやや高いくらいな印象があり、現地ガイドさんが子どもの教育費もとても高いと言っていました。急激な経済成長の恩恵で暮しは豊かになりましたが、夫婦共働きしないと暮していけないという背景もあると思います。また、その当時、日本ではまだ電子マネーはそんなに普及していなかったのですが、上海ではすでに現金はもたず、支払いなども全てスマホでしていた姿が印象に残っています。スマホでピッと注文すれば、食べたいものがデリバリーで自宅に届く。食事を作らなくても良い環境が整っています。

そんな中でも「あえて料理を作っている」というご夫婦が紹介されています。同じ家に暮していても「一緒に過ごす時間」がなかなか作れない。また、外食には衛生面や安全性の面への不安もある。そこで、あえて毎日夕食は手づくりし、一緒に食べることをルールとしているとのこと。料理をしなくても生きていける、それでも生きていることを実感するために、大切な人との時間を確保するために台所に立っているというストーリー。

日本でも(上海ほどではないけれど)外食や中食という手段も増えている中、今一歩振り返って考えてみたいことだと思いました。

ボツワナの3本脚の鍋

キッチンで使う道具なども紹介されているのですが、一番気になったのがボツワナの3本脚の鍋でした。

ボツワナの3本脚の鍋

ボツワナの3本脚の鍋の話

南アフリカに位置するボツワナで昔から使われているという、金属製のどっしりとした鍋には3本脚が生えていて、そのまま火にかけて使えると紹介されています。普段私たちが使っているキッチンでは、コンロに五徳がついていて、そこに鍋を置いて使いますよね。もし鍋底に3本の脚がついていれば五徳がなくても良いことになります。また、鍋の使い方は、暑い地域と寒い地域では異なります。ボツワナの鍋は床に置いて使うので、暑い地域の使い方になります。

ボツワナについて少し調べてみました。ボツワナは、南部アフリカの内陸に位置する共和制国家で、南を南アフリカ共和国、西と北をナミビア、東をジンバブエ、北をザンビアに囲まれた内陸国である。政治や経済も安定し、教育にも力を入れており、アフリカの優等生と言われている(出典:wikipedia)。

ボツワナ共和国

ボツワナ共和国(出典:wikipedia)

北部は熱帯気候で、東部は半乾燥・亜熱帯気候。夏は昼夜にわたって非常に暑いが雨や雷雨が多く、雨が続いた後は涼しくなる。日中の気温は摂氏35度に達するが、場所によってはさらに高くなる。湿気がほとんどないので暑さは我慢できる。冬は乾燥して寒く、夜は特に寒く、冬の気温は摂氏2度くらいまで下がる。特に南西部では冷え込み、たまに氷点下の気温も記録される(出典:ボツワナ共和国大使館

一般的に寒い地域では鍋は吊って、料理と暖房を兼ねて使います。ボツワナは夏の暑い時期と冬の寒い時期の寒暖差がある国のようですが、3本脚の鍋は床に置いて調理専門に使い、これで「暖を取る」ことはないのだろうと思いました。こちらの本を読むまでボツワナのことをあまり知りませんでしたが、このような調理器具があると分かると、一度行ってみたくなりました。

コロナで変わったこと

講演会では最後にディスカッションがありました。「コロナが食事にもたらした変化」については、食の営みを見なおすきっかけになったのでは?という話が出ました。

確かに、コロナ禍で外出自粛が続く中で、家で食事をする機会が増え、家族と会話をする時間も増えました。みんなが集まるのが食事の時間であり、お腹が満たされる中、緩やかでおだやかな時間を過ごせたように思います。

このように、食事を作り、食べる場である「台所」からは、その国の、その家庭の暮らしぶりを垣間見ることができます。国ごとに社会情勢も異なり、そこでよくとれる食物や男女の役割なども異なりますが、キッチンをのぞくことでそれらを知ることができます。

台所は生活に密着した場だからこそなかなか見せてもらうのが難しい空間でもあると思いますが、こちらの本ではそこに飛び込んで経験したことを書いてくださっているので、私たちも様子を知ることができます。興味のある方はぜひお手に取ってご覧ください。

■今回ご紹介した本
『料理から暮らしと社会がみえる「世界の台所探検」』 岡根谷実里著/青幻舎
購入はこちら (amazon)

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